破産申請者の○と×(やって良いこと悪いこと)

破産申請会社代表者には、諸々の義務が課されており、やって良いこと(○)悪いこと(×)があります。×の行為をすると免責不許可や役員の民事・刑事上の責任を追求される場合があります。

以下のQ&Aは、東京地裁での扱いを「推測」したものです。東京地裁が、明確に断言しているわけではなく、また、個々の事案、時間の経過とともに変化します。あくまでも、「参考」程度にしてください。


Q1
破産申請会社代表者は、破産申請直前、回収した売掛金で従業員の給与を支払った。否認されるか
A1
否認されない。
破産会社代表者や代表者個人は、破産を決意した時点から破産会社や代表者個人の財産の散逸を防止する義務があり、回収した売掛金はそのまま管財人に引き継ぐ必要がある。しかし、従業員の給料、予納金や破産申請のための弁護士費用、常識的な生活費、医療費、転居費用、葬儀費用、学費、マンションの管理費や家賃、公租公課、等に費消しても、「有用の資に充てた」ものであり、財産散逸防止義務には違反しない。
ただし、回収した売掛金のうち99万円を自由財産として保持することはできない。
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Q2
破産申請予定者Aは、119万円の預金をもっている。このうち破産申請前に99万円解約し、99万円の現金と20万円の預金とした。預金・現金合計で119万円の自由財産として保持できるか
A2
できる。
裁判所は、預金や保険に関しては、暗黙のうちに直前現金化を認めている。
この場合、119万円の預金のままなら、全額財団に組み込まれるが、99万円の現金と20万円の預金に組み直せば、全額が自由財産となる。
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Q3
破産申請会社は、売掛金を回収したのち、破産申請日前日に従業員に給料を支払い、さらに役員に賞与を支払った。この役員賞与は否認されるか。
A3
否認される場合と否認されない場合がある。
従業員の給与は財団債権(直近3月分だけ)だが、役員報酬は、売掛金同様、一般債権である。従業員に給与を支払うことは財団債権を弁済することで問題はなく否認されない。しかし、役員に報酬を支払うことは、特定の一部の債権者に支払うことと同じで、偏頗弁済として否認されることになる。
しかし、多くの多くの中小企業では、役員と従業員の区別が定かでなく、実体は労働者なのに、役員として扱い雇用保険を支払っていない場合もある。東京地裁は「従業員を兼務し、従業員として賃金も得ている場合には、賃金としての性質を有する部分について、給料債権(財団債権または優先的破産債権)となります」としか述べていない。
まず役員という名目でも、実際は、「決定権は何もなく、業務内容も従業員と同じ」ときは、その報酬を給与として扱っていいだろう。
業務内容という点からも、決定権という点からも、どうみても役員の時は、役員報酬として処理せざるをえない。
「決定権はあるが、業務内容は労働者と同じ」という場合は、ケースバイケースだ。予納金との兼ね合いで判断される。
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Q4
破産申請前に不動産を売却し現金化する行為は許されるか
A4
適正価格である限り問題にならないが、売買代金は費消してはならない。
破産法161条によれば、不動産の売却は適正価格である限り、「隠匿等」の不正行為に該当しない場合は、売却しても構わない。
ただし、破産申請予定者は、財産散逸防止義務があるから、取得した売却代金は、必用な支出以外は、全て管財人に引き継ぐ必要がある。
破産申請代理人にも換価禁止の義務がある以上は、代理人弁護士が、換価行為に関与しても、これを理由とする手数料を、破産申請手数料と別に取得することは、換価が特別困難だったという事情がない限り、認められない。
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Q5
不動産の売却代金は、絶対に費消してはならないか
A5
有用の資にあてるならかまわない。
破産申請予定者は、不動産の売却代金を有用な資にあてるなら、財産散逸防止義務には違反しない。
例えば、子息のための学費、従業員の給料、偏頗弁済にならない限度での弁済期の来た買掛金の支払い、こういうものは、「有用な資にあてるため」と言える。また、予納金や破産申請のための弁護士費用、常識的な生活費、医療費、転居費用、葬儀費用、学費、マンションの管理費や家賃、公租公課、等に費消しても、「有用の資に充てた」と言える。
ただ、これらの項目に形式的に該当しても、非常識な金額、例えば100万円の生活費など否認される。
生活費の場合は、特別な出費以外は別にして、住居費、水道光熱費、交通費等を含めて家族全体で33万円程度に収めることが必要である。
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Q6
不動産売却代金のうち99万円を自由財産として確保できるか
A6
確保できない。
大阪地裁は、明確に確保できないとしているが、東京地裁の考えは明確ではない。しかし、破産者には財産換価禁止や財産散逸防止義務がある以上、確保できないと考えられる。
99万円は破産者の権利だととらえて、保持できるとする見解もあるが、現在の裁判所の主流ではない。
ただし、絶対に無理というわけではなく、必要性等を管財人に説明すれば、認めてくれる場合がある。
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Q7
過払い金回収金は自由財産として99万円まで確保できるか
A7
確保できる。
大阪地裁は認めているが、東京地裁の態度は明確ではない。しかし、破産申請代理人が過払い金回収をしても問題がないこと、回収したら99万円の範囲で自由財産を確保できること、弁護士費用も適正な範囲なら認められるという取扱いである。
ただし、現実に回収することが必要で、過払い金の支払い合意をしただけでは、自由財産とは認められない。
また、申立に迅速性が要求される法人破産では、回収している時間的余裕はなく、多くの場合、管財人に引き継ぐことになろう。
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Q8
会社代表者の親友Aが従業員の給与100万円を立て替えて支払ってくれた。会社は、破産直前に手元資金の中から、その親友に100万円を弁済し、破産申請をした。偏頗弁済になるか
A8
ならない。
負債を立て替えて支払った場合、立て替えた人の求償権は、本来は、優先権のない一般債権になるはずである。
しかし、給与のような財団債権を立て替えて支払った場合も、優先権のない一般債権扱いなのか。
最高裁は、以下のように述べて、財団債権であるとした。(最判小23・11・22)
(1) 弁済による代位弁済制度は、代位弁済者の求償権を確保する法的担保制度である。
(2) この制度趣旨からして、財団債権を代位弁済したことにより取得した求償権が破産債権に過ぎないとしても、破産手続によらず財団債権を行使できると解すべきである。
最高裁は、破産手続の中での求償権の行使方法を述べたものだが、この判例の趣旨からすると、財団債権を代位弁済した場合、その求償権は、財団債権と同様の扱いをすることになる。
危機時において、弁済期の来た財団債権を弁済しても偏頗弁済にはならない。
そこで、設問(1)では、給料日に給料を支払うのと同様に、偏頗弁済にならないと考えられる。
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Q9
会社代表者の親友Bが滞納法人税100万円を立て替えて支払ってくれた。会社は、破産直前に手元資金の中から、その親友に100万円を弁済し、破産申請をした。偏頗弁済になるか
A9
なる。
租税債権も一定の範囲では財団債権になる。給料を立て替えて支払った場合、求償権を財団債権として扱うなら、同様に同じ財団債権である租税債権を支払った場合も、同様ではないかとも考えられる。
しかし、弁済による代位を認めれば、民間人が、滞納処分の執行権や国に特に認められる優先権を代位行使できることになるが、国税は、その性質上、租税徴収権者に専属する固有の権利であり、租税債権の代位はありえない(東京高判H17・6・3)。
この観点に立つと、租税債権を代わって支払っても、その求償権は、破産債権としての効力しかなく、破産直前に行われた弁済は、偏頗弁済になる。
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Q10
会社代表者の親友Cが、[従業員の給与100万円、滞納法人税100万円、合計200万円]を立て替えて支払ってくれた。会社は、破産直前に手元資金の中から、その親友に200万円を弁済し、破産申請をした。偏頗弁済になるか
A10
なる場合とならない場合がある。
常識的に考えれば、賃金債権の立替分は偏頗弁済にあたらず、税金の立替分は偏波弁済にあたるといえる。
ただ、最高裁は、不動産を売却し、その売却代金を全額有用の資に充てれば詐害行為にならないが、半分を有用の資に充てただけでは全体が詐害行為になると判断している。これと同様の考えにたてば、全体が偏頗弁済になるという理屈も成り立たないではない。
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Q11
資金的に追い詰められているが、今月支払い時期が来る弁済期の来た債務は、借り入れをすれば何とか支払える。しかし、来月は支払えない。このような場合、新たに借り入れをすることは、免責不許可事由にあたる詐術にあたるか
A11
あたらない。
支払い不能とは、弁済期の来た債務を弁済できない状態をいうが、自己資金のみで債務を弁済できなくても、借金をすることで「弁済期の来た債務」を弁済できれば、支払い不能には、あたらない。
多くの経営者は、客観的にみて資金繰りが行き詰ることは明らかでも、最後の最後まで借りいれてこの場をしのげば、借金をすることで「弁済期の来た債務」を弁済できる、何とかなると思っている。つまり、経営者本人には、支払い不能という認識がない。支払い不能という認識がない以上は、「詐術」には、該当しない。
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Q12
夫Aは、会社経営に失敗し、自己破産する予定である。しかし、幸いなことに、家にはローンはついていない。そこで、妻Bは、夫Aと離婚したのち、破産宣告前に、財産分与を原因として家の2分の1を移転登記した。この行為は、否認されるか
A12
否認されない。
裁判所は、財産分与が詐害行為に当たるかという問題について、それが通常の財産分与なら問題ない、つまり
@ 民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり
A 財産分与に仮託してされた財産分与であると認めるに足りるような特段の事情がない限り、問題にはならないという立場である。(最判58・12・19)否認訴訟にも同様に考えられる。
ただ、危機時における対抗要件具備行為として否認されないかという問題が残るが、財産分与は、本来は、否認対象にならず、ただ財産分与に名を借りた不相当価格での行為だけが否認の対象になる。
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Q13
夫Aは、財産分与として1000万円を妻Bに分与する約束をしたのち受領する前に破産した。妻Bは、破産財団に財団債権として金1000万円を請求できるか
A13
できない。
財産分与の金銭給付の約束が破産宣告前でも、破産宣告前に履行されていなければ、単なる破産債権になる。
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Q14
Q12の例で、夫婦A・Bは、夫婦仲がよく、離婚は財産分与のためのみである。このような離婚は偽装離婚として無効となるか
A14
離婚は有効である。
不仲でなくとも、離婚はできる。夫婦仲が良くても、離婚の法律効果を享受する意思がある以上は、偽装離婚とは言えない。(大阪高裁判例)。
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Q15
某弁護士から、自宅を親族や知人に買い取ってもらって,その人から借りて住み続ける。その後に自己破産する。家に住みながら借金を消せるという提案を受けた。大丈夫か?
A15
原則として、×である。
破産申請者には、換価行為禁止・財産散逸防止義務がある。しかも、破産宣告後の賃料は財団債権になる。
破産者の住宅は、本来は、総債権者の配当原資となるべきものである。破産申立代理人としては、この住宅も、速やかに破産管財人に引き継ぐべきで、その処分は、裁判所から任命された破産管財人に委ねるのが、破産申立て代理人の法的義務である。
それを代表者個人が、ましてや、速やかに全財産を管財人に引き継ぐべき義務のある破産申立代理人弁護士が、かってに処分することは、換価行為禁止、財産散逸禁止防止義務違反であって、原則として違法というほかはない。
このような行為は、多くは問題視され、代理人弁護士自身が賠償責任を負うことになるし、換価には時間がかかることから、迅速申立義務にも違反する。
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破産法に明記されている義務
(1) 不動産の処分禁止
隠匿しやすい金銭等に変える等「隠匿等のおそれを現に生じさせる」行為として、全て否認されます。
(2)それ以外
それ以外の行為は、支払い停止日を基準として制限しています。
@まず支払い停止後は、特定の債権者のために弁済したり、担保設定したり、対抗要件を具備する行為(設定後15日以内の場合は別)、その他、債務者の財産を減少させる一切の行為は禁止されます。
A支払い停止前は、原則として規制はありませんが、支払い停止日から逆算して30日を経過する前の行為のうち、弁済期がきていない特定債務を弁済したり、担保設定が義務のない担保設定したり、債務者の財産を減少させる一切の行為が禁止されます。

裁判所が課している義務
破産法とは別に、破産予定者は、破産を決意した時点から、以下の義務を負います。

■財産散逸防止義務 (会社財産の散逸を防ぎ、できるだけ多く管財人に引き継ぐという義務)

■換価行為禁止義務 (安易に資産を売って現金化せず、できるだけ現状のまま管財人に引き継ぐ義務)。
代理人弁護士も、破産申請予定者を監督し、財産散逸防止義務・換価行為禁止義務を遵守させる義務があると関しています。